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第三話 風変わりな面接
面接当日。約束の時間は朝の9時だ。リクルートスーツに着替えて、まずは8時から開いてる駅中の床屋に行って散髪する。そんなに伸びてもいなかったが今から面接を受けるのならそれは当然の礼儀である。そういうことをおれはしっかり分かっていた。
「お兄さん、まだそんなに伸びてないようだけど。髪型変えるのかい?」
「いえ、このままでいいです。ただ整髪してください。今からバイトの面接なんです」
「あんた真面目なんだねえ。今どきの子では珍しいよ」
「これを落ちたらまた探さないといけない。二度手間が嫌いなだけですよ」
────
「よし! バッチリだ。自信持って面接行っておいで!」
「ありがとうございます」
おれは綺麗に整えてもらうと時刻は8時33分。待ち合わせ場所に向かうのに丁度いい時間だ。
駅前にもう何十年も前から変わらずあるアイスコーヒーが美味い喫茶店『えにし』で待ち合わせ。
おれはえにしの扉を開けた。この扉には鈴が付いていてその鈴の音が独特で、密かにおれはここの扉を開けるのが好きだった。
カロンカロン
「いらっしゃいませ」
入ってみると客席にはかなり渋い40代後半くらいかなというおじさんが1人いた。カウンターには50代くらいの二代目マスター。その奥の住居スペースには女性が座椅子に座っていた。テレビでも観ているのだろうか。少し音が聞こえる。
客席に目をやった。
(この人が渡邉さんかな? 雰囲気はあるが、でもまだ8時40分だし着いてないだけの可能性もあるな)と思ったが
「早かったな。椎名さんだろ?」と話しかけられた。
「あ、ハイ。渡邉さんですか? 初めまして、椎名です」
「はい、初めまして。マスター、アイスコーヒー2つ」と渡邉さんは指を2つ立てて注文した。
「アイスコーヒー2つですね。ありがとうございます」
「ここはアイスコーヒーがとくに美味いんだ。今日は少し寒いけどせっかくだから飲んでみてほしい」
「あ、ありがとうございます。……でも実は知ってました。僕もここのアイスコーヒーが大好きでして」
「なんだそうか! 椎名さんもかい。分かってるじゃないか! おれはもうここのアイスコーヒーを飲むために面接場所をここにしてるまであるんだよ」
「何で僕が椎名だって分かったんですか? 待ち合わせ時間にはまだ余裕があったと思いますが」
「なに、電話の印象と服装と髪型が一致したからな。あの感じだときっと20分前には来るタイプだと思ってさらに早く来ておいたのさ。ここまでは読み通りだ……。じゃあ履歴書出して」
昨日の電話では履歴書を持ってくることなどは言われていない。だが……
「はい」
それも用意してるのがおれである。
「やっぱり持ってきてたな。丁寧な言葉遣い。20分前集合。前もってきちんと整えた黒髪。リクルートスーツ。言われなくても用意してある写真付きの履歴書。ここまでは完璧だ」
そんなにたくさん試されてたのか。就職って大変だな、と思った。
「アイスコーヒー2つお待たせしました」
マスターの娘だろうか。店の奥の住居スペースにいた若い女性がエプロンをつけていつの間にかホールで働いていた。
「いただきます」
美味しい。ブラックのままいける。
半分くらい飲んだらミルクを入れてまた飲んだ。
最後はガムシロップも入れて。どの飲み方にしても美味しい。
「飲んだら場所を移そうか。次は牌を使っての面接だ」
どうやら一次試験は合格したらしい。次は実技という事だろうか。
「マスター。奥使わせてくれ」
「分かりました。久しぶりですね奥まで行く人が来てくれたのは」
「まぁな」
店の奥に謎の引き戸が『えにし』にはあった。レンタルスペースと聞いていたがそこを使用してる様子は見たことがない。
スーー。と戸を引くとそこにはポツンと一台の麻雀卓が置いてあった。
63.第四話 これが勝負師 結局、曽根がアガリをとれたのは初めのハネマン一回だけでありその後はみんなして曽根をボコボコにした。プロ3人でよってたかってフルボッコである。「わかったわかったわかりました。格の違いはもうわかったから、お願いだからこの辺でやめて!」「こう言ってるし、中野さんはもうアガるの禁止でよくないですか」「よくねーだろ! 今おれ三着目だろうが」南3局曽根の最後の親番中野 29800点トキオ33100点曽根 3600点ミサト33500点 3人は三つ巴だった。なのでここで軽くアガリを取ろうとか考えない、むしろこの局。ここで決着をつけるように手作りするのがプロというものだ。それを3人とも分かっているのでこの局は誰も鳴かなかった。そして……「リーチ!」「リーチ」「私もリーチよ」 親の曽根以外の3人が一気にリーチ。曽根は親番ではあるがさすがに無理なものは無理なため『もうお手上げ』とばかりに現物を力無く放る。「ツモ」ミサト手牌三三八八八①②③11666 1ツモ 手を開いたのはミサトだった。「四萬切りリーチで三萬と1索のシャボ!」「3軒目のリーチなのにあえてツモり三暗刻なの?」「三萬が山にありそうだったからね。まあ、引けたのは1索なんだけど。それに、アナタたち強いからここで決着つけておくのが最善策だと思ったの。はい、2000.4000で私の勝ちね」 チャン
62.第三話 ミオちゃんの配信 トキオはダブ南を鳴いて打2索とした。トキオの捨て牌にはソーズが全く出ておらず、この2索が初めてトキオから出たソーズだった。 ジュリはトキオの手をチョロっと見に行ったトキオ手牌二三⑤⑤赤⑤44赤567(南南南) ドラ7(ポンテン8000かー) トキオは既にダブ南赤赤ドラの一-四萬待ちポンテンを入れていた。しかしトキオの仕掛けに対して一-四は危険牌であるので現状はすんなりアガれるか分からないな、とジュリはトキオの手を見ながら思った。するとミサトの手から4索が切られた。「ポン」打赤⑤(は?)トキオ手牌二三⑤⑤赤567(444)(南南南) ドラ7(え? 手を短くして、使えるドラを捨てて、待ちを変えることもしないってどういうこと?) 見てる方が混乱するような鳴きだった。しかし、これは対局者にしか分からない魔法なのである。曽根打一「ロン」「えっ!?」パタントキオ手牌二三⑤⑤赤567(444)(南南南) ドラ7「満貫!」「使える赤を捨ててる……?」「メンゼン祝儀のルールだからね。そこのルール表の通りにやるなら」 たしかに、この麻雀ルームは昔はフリー雀荘だったのか店のルール表
61.第二話 対決! 新人王vs新人王 川原田朱里(かわはらだじゅり)は中野雅也(なかのまさや)の有能な右腕だ。 彼女は言われるであろうことを先読みして動けるタイプの人間なので、あれよあれよと事が進んでいく。気が付いたら全てのサイドテーブルにキンキンに冷えた麦茶まで置いてある。A卓東家 中野雅也(なかのまさや)南家 金田朱鷺子(トキオ)西家 曽根博一(そねひろかず)北家 井川美沙都(ミサト)B卓東家 金子水景(ミカゲ)南家 鳥栖大毅(とすだいき)西家 飯田雪(ユキ)北家 鹿野沙織(しかのさおり)立会人 川原田朱里「ジュリはおれたちの勝負を見届けてくれ。おれが本物のプロ雀士だったって所を見せてやるから見逃すなよ」「わかりました」「「よろしくお願いします!」」 各卓ゲームを開始した。 A卓は35期新人王と36期新人王の対決だ。中野は麻雀プロを辞めて4年になるが一度は新人王にまでなった実力の持ち主だ。そう簡単には勝たせてもらえないだろうとミサトは警戒して挑んだ。「えー、みなさんやりながらでいいんで聞いてください。今回の勝負はチーム戦です。我々『カキヌマホールディングス』対『井川美沙都プロ率いる女流雀士チーム』はまず一回戦をA卓B卓に分かれて対局します。その結果で例えば課長が3位で曽根が4位だとしたとしたら二回戦A卓は課長B卓は曽根というように同卓した同じチームの相手とで順位が上の方が二回戦はA卓に、下の順位の方がB卓に行き決勝を行う半荘2回勝負です。終わったらチームトータル得点を計算して負けたチームがこの麻雀ルームの場代を持ちます。また、個人優勝した方にはここの売店で1番高いお
60.ここまでのあらすじ ミサトとユキはアクアリウム静岡店でゲストに呼ばれ、18卓ある店舗を見事期間中の3日間毎日満卓にした。2人は自分たちコンビを『牌戦士 三郷幸』と名乗る。牌戦士たちの旅は続く、次は一体どんな出会いがあるのやら――【登場人物紹介】井川美沙都いがわみさと主人公。怠けることを嫌い、ストイックに鍛え続けるアスリート系美女。金髪ロングがトレードマーク。通称護りのミサト日本プロ麻雀師団所属獲得タイトル第36期新人王第35期師団名人戦準優勝など飯田雪いいだゆき井川ミサトの元バイト先の仲間でありミサトのよき理解者。ボーイッシュな髪型、服装をしているが顔立ちはこの上なく女の子で可愛らしい、そのギャップが良い。金田朱鷺子かねだときこ新宿でゴールデンコンビと言われる2人組。生物学的には女だが、見た目は美男子で『トキオ』の名で通っている。通称TKOのトキオ。麻雀真剣師団体ツイカの1期生。新宿ゴールデン街で店をミカゲと共同経営している。金子水景かねこみかげトキオと2人でゴールデンコンビと言われる一流雀士。通称隠密ミカゲ。麻雀真剣師団体ツイカ1期生。新宿ゴールデン街で店をトキオと共同経営している。 普段は分厚いメガネをしててダサめな姿だが、メガネを外しコンタクトにするとすごく美人。その4第一話 偶然の再会&n
59.サイドストーリー3 約束後編 彼女が開いて連絡先交換をしようとしてる携帯電話の待ち受けは『松潤』だった。僕は自分で言うのはちょっとアレだが松潤に似てると言われてきた。それは10回20回程度のことではなく、「ありがと、もう分かったよ」と言いたくなるくらい色々な人から言われることだった。つまり、その待ち受けを見ることで本当に僕の顔が好みなんだとわかった。 そして、この子のことは僕も好きになりつつあった。いや、好きだった。連絡先の交換はしたい。付き合いたい。また、この子に絡みつくように抱きしめられたい。そういう気持ちになった。一瞬だけど。 でも、僕は彼女持ちだ。裏切りたくない。かと言ってこの子がすんなり引き下がる言葉ってなんだろう。「連絡先交換くらい良いじゃない」と言われそうだ。その通りだとも思うけど、ここで交換したらそのままお付き合いに発展する気しかしなかった。自分のことは自分が一番わかる。「……もう一度会ったら」「え?」「僕は多分この店にはもう来る機会はない。それでも偶然どこかであなたともう一度会ったら。その時は運命だと思って連絡先を交換すると約束する」「わかった、約束よ!」「約束だ」 ◆◇◆◇ 6年後 僕は渋谷にいた。 今から帰ろうと駅前の大森堂書店に少し寄り道してから交差点に向かう時。とっても素敵な笑顔でベビーカ
58.サイドストーリー3 約束前編 僕は約束は大抵守る方だ。 果たせない大きな約束とか、小さな事で忘れちゃった約束とかは抜きにして。守れる約束は守る。特に自分から言い出したやつだったら尚更だ。 そんな僕の記憶の中で、破った約束。でも、それでいいと思った約束。その思い出話を聞いてくれるかい。────── 僕の名前は賤機光(しずはたひかり)。みんなにはヒカリくんて呼ばれてる。多分苗字が読めないから覚えてもらえてないんだと思う。 職業は雀荘メンバー。メンバーってのは店員ってことね。千葉県にある雀荘『積み木』の遅番を担当してる。 ある真夏のその夜は暇で、雀荘『積み木』には遅番の来客が1人しか無く。僕はその1人のお客さんの話し相手になってた。 その人はお客さんの中でもかなりお金持ちで麻雀も強くて優しくて女性にもモテるんだろうなあ、という尾崎洋平(おざきようへい)さんというお客さんだ。遅番担当の僕は「もう今日は誰も来ないからあがっていいよ」とオーナーに言われた。すると尾崎さんは「ヒカリくん、じゃあ今からキャバクラでも行こうか。どうせ今帰っても早すぎるだろ? おれは朝まで麻雀するつもりだったんだから付き合ってくれよ。お金は気にしなくていいから」と言われた。 別にいいんだけど自分には付き合ってる彼女がいるので罪悪感があった。だが、麻雀が打てなかったのは2人体制の雀荘の責任でもあり、それについても罪悪感はある。お金気にしなくていいまで言われたら「いいえお断りします」とは言えなかった。(まあ、一緒にちょっと騒いで飲み物飲んでたまに歌う程度のことだろう。何も問題ないかな)と思って僕はキャバクラに付き合った